輸出の始め方
輸出のやり方は状況により千差万別でどれが正しいとかどれが間違っているとかは一概には言えませんが、過去の多数の成功事例や失敗事例などから導かれた”成功しやすいやり方”(=セオリー)というものはあります。このセオリーに従ってやるべきことを一つ一つ実行していくことで、輸出の成功の確率を上げることができます。ここでは海外への輸出を始めようと決めてから実際にやるべきことについて、①輸出を始める前の準備の段階、②引き合いが来た段階、③商談・契約段階、④製品の出荷をする段階、⑤フォローアップの段階、の5つの段階に分けてご説明します。
輸出に向けての準備段階 |
1.輸出戦略の策定
①自社の強みと製品のセールスポイントの洗い出し
輸出に着手する前に、まず自社の強みと販売する製品のセールスポイントについて洗い出します。
色々な切り口から分析することで、これまで気づかなかった強みやセールスポイントが見えてきたりします。
また、自社だけでなく第三者の意見も聞いてみると意外な点が評価されていたりします。
②市場調査(ニーズ、競合相手などの調査)
並行して輸出をしようと考えている国を何か国かピックアップして自社の製品が売れそうかどうか、ニーズや
競合相手の有無などを調査します。
市場調査は有料の調査会社に依頼するという方法もありますが、インターネットや書物、雑誌などを利用して
費用をかけずに行うことも十分可能です。特にジェトロが発行しているスタイルシリーズという冊子は代表的な
都市の衣食住のライフスタイルについての情報が豊富に掲載されていて参考になります。(ジェトロHPから
ダウンロード可能です。)
それから意外と重要なのが、輸入規制や販売規制の有無です。いくらニーズがあって自社の製品が売れそうでも、
対応が困難な販売規制があったり、そもそも輸入規制があって輸入できない、ということになれば元も子も
ありません。
③輸出国とターゲットの選定
市場調査と自社の分析の結果をもとに、輸出する国とターゲットとするユーザーを絞りこみます。始めは一か国から
スタートして輸出実務を習得し、ある程度経験を積んで慣れてきたら他国へ横展開していくと良いです。
輸出する国の選定に際しては、規制などが緩やかな”輸出しやすい国”を選ぶことがポイントです。
2.社内体制の整備
次に社内体制の整備に取り掛かります。海外との取引においては、英語でのメールのやり取りや貿易書類の作成、出荷の手配、英文の各種営業用資料や英文契約書の作成など、海外取引に特有の様々な業務が発生します。これらの業務をこなすことのできる人材を社内あるいは社外から確保する必要があります。しっかりとした社内体制作りが成功にはかかせません。
また、海外取引には国内取引とは異なる様々な決まり事や商習慣などがありますから、それらについてあらかじめ社内外の研修などを通じて理解しておく必要があります。(インコタームズなどの貿易実務や国際契約の知識など)
3.輸出価格の算出、取引条件の決定
海外へ輸出する場合、輸出用梱包にする費用や船積の諸掛り、輸出通関費用など、国内取引にはなかった費用が発生します。
したがって、価格を算出する場合はそれらの費用を含めて計算する必要があります。
また、国際取引で価格を出すときは通常インコタームズというアルファベット3文字で表す貿易条件に基づいて提示するので、どのインコタームズを使うのかあらかじめ決めておく必要があります。
そのほか、考え方も商習慣も言語も異なる国に住む人同士が取引を行う国際取引では、トラブルを最小限に抑えるために支払条件や品質条件、出荷条件など取引条件を取り決めておく必要があります。
4.売買契約書の作成
上述のように、考え方も商習慣も言語も異なる国に住む人同士が取引を行うと、誤解が生じやすく、国内取引に比べてトラブルになりやすいです。何かあったときにすぐに会って問題を協議できる国内取引とは違い、海外との取引でトラブルになった場合、なかなか解決することは難しいです。そのため、国際取引では必ず契約書を取り交わしてトラブルの発生を未然に予防することが重要です。
契約書は売り手と買い手のどちらが作成しても構いませんが、当然、作成した側に有利に作られるものですので、あらかじめ自社でひな形を作っておいた方が良いです。
5.各種営業用資料の作成
海外の取引先へ営業するために、あらかじめ以下のものを英語で用意しておく必要があります。
①製品カタログ
②会社案内
③英文ホームページ
④英語表記の名刺
⑤価格表
製品カタログやホームページなどの英訳は必ずネイティブチェックを受けることが大切です。その際、可能であれば業界用語をよく知っているネイティブの人に依頼するとよいでしょう。
6.宣伝・広告等販促活動
どんなに良い製品を作っていても、その存在を知ってもらわなければ製品は売れません。したがって、特に初期の段階では、積極的に販売促進活動や広報活動を行う必要があります。その際に重要なポイントは、やみくもに広告を打ったりするのではなく、始めに定めたターゲットにしっかりと届くように考えてプロモーションや広告を行うということです。プロモーションの方法としては、潜在顧客へのDM送付やSNSを活用したプロモーション、業界誌への広告、インターネット広告、展示会への出展、ジェトロTTPPなどのマッチングサイトの活用などがあります。製品のユニーク性や希少性などにも左右されますが、ホームページを充実させて潜在顧客を呼び込むという手法でも効果はあります。
引き合いへの回答 |
営業活動の結果、海外の潜在顧客から引き合いが届くようになります。この引き合いに対しては速やかに回答をする必要があります。
なぜなら、日にちが経つうちに相手側の興味も急速に薄れていくものだからです。
回答をする際には支払条件や品質条件などの取引条件が記載された価格表を送ります。
通常、この価格表をベースに取引条件や価格についての交渉が始まります。
商談・契約 |
交渉の結果、取引条件に両者が合意すると契約書の締結作業に入ります。このとき、上述のようにあらかじめ用意しておいた契約書を先に相手側に送ることが望ましいですが、逆に相手から先に契約書を送られてくる場合もあります。そのような場合は必ず内容を精査し、不利な条項がないかどうか、合意していない内容が含まれていないか確認することが重要です。もしそのような条項があった場合、速やかに相手側へ伝えて修正してもらいましょう。
なお、契約書の文章は普段は使われない独特の法律表現が多く、一般的に使われる意味とは異なる意味で使われる法律用語も多いです。
それぞれの条項が持つ意味や読む際に注意するポイントなどの知識も必要ですので、弁護士などの法律の専門家か、法律に詳しい外部の人のサポートを得る方が無難です。
契約書の内容に問題がなければ署名をして双方が1部ずつ保有することになります。
製品の出荷 |
1.インボイス等輸出書類の作成、送付
売買契約書の内容に従ってインボイス等の輸出書類を作成します。インボイスは見積書や通関書類、請求書など色々な用途に使用される書類ですが、ここでは請求書の意味で使用し、相手側に送付して製品代金の支払いを依頼します。
2.送金受領、輸出用製品の用意(輸出梱包)
送付したインボイスに従って相手側から代金が支払われたことを確認してから、出荷の準備に取り掛かります。(輸出初期の段階では量もそれほど多くないと思われるので通常は銀行送金で支払われることになります。)
国内で出荷するときのような梱包では国際輸送の際に貨物がダメージを受ける可能性がありますので、国際輸送に耐えうるしっかりとした輸出用の梱包をする必要があります。
3.輸送手段の手配、発送
梱包が出来たら輸送手段の手配をします。輸送手段には国際郵便(航空便、船便、SAL便、EMS)、FedexやUPSなどの国際宅配便、航空便、船便などがあり、貨物の量や輸送日数、輸送費用などに応じて使い分けます。
国際郵便については通常、郵便局に貨物を持参して出荷を依頼します。国際宅配便については集荷を依頼します。航空便や船便についてはフォワーダーなどの専門の業者へ依頼します。
フォローアップ |
輸出は一回商品を出荷すればそれで終わりというものではありません。その後に出荷した商品の不良が発生すればトラブルになる前に迅速に対応しなければなりませんし、取引先から価格交渉の要求が来たりしたら対応しなければなりません。また、継続的なビジネスとするためには、常に現地のマーケットのトレンドやニーズの情報の入手を心掛け、それらに合わせて随時商品や販売方法、宣伝方法などを改良していくことが必要となります。輸出ビジネスは商品を出荷してからが始まりなのです。
1.製品が無事着いたかどうかの確認
製品が届く頃を見計らってメールや電話などで製品が無事届いたかどうかの確認をします。国際輸送の場合、想定していたよりも大幅に時間がかかったり、届かなかったり、貨物が損傷した状態で届いたりすることがあります。そのため、到着予定に合わせて状況を確認し、不着や遅延、貨物の損傷があった場合はすぐに対応することが顧客満足度を高めるためにも大事です。
2.アフターサービス&クレーム対応
製品によっては修理などのアフターサービスが必要なものもあります。また、品質に関してのクレームが寄せられることもあります。
いずれにしても問い合わせや依頼事項には誠実かつ迅速に対応することが顧客満足度を高め、クレームの影響を最小限に抑えるうえでも重要です。
3.次回以降の注文予定の確認
一回の輸出で終わってしまわないよう、定期的にコンタクトをとり、売れ行きや在庫状況などの確認や要望事項などについてのヒアリングをし、次回以降の注文予定を聞き出すようにします。
4.新製品の案内、会社のニュースなど
上記3.に関連しますが、相手の興味をつなぎ留めておくためにも、新製品の情報や会社のニュース、他市場の成功事例などを定期的に連絡するようにします。その何気ないコミュニケーションの中から「そういえば」と次の注文が来ることも多くあります。